恵美須神社

「恵美須神社」

 

 1月に行われる「十日ゑびす祭典(初ゑびす)」では多くに人で賑わう境内も、普段訪れると人影も疎らな静かな場所となる。
 恵美須神社は観光地というよりは、地元の人々に愛されている神社だ。なので観光客を呼べるようなこれといった見所は特にない。えびす様を祀っているので都七福神巡りの一つとされているのが、唯一のアピールポイントだろうか。
 が、別に観光客を集められないからと言ってなんらの優劣が決まるものではなく、それぞれの場所には、それぞれの味がある。では、恵美須神社にはどんな味があるか。
 一つは境内の北東にとても珍しい財布塚と名刺塚があることだろうか。えびす様を祀る神社だけに、商売に欠かせない名刺と、お金と最も関わりの深い財布の供養塚があるのだ。商売を繁盛させる為には、それに関わるモノへの感謝を忘れてはいけないということだろうか。とても日本人的発想で面白い。
 二つめは、本殿の北側に天満宮、白太夫社を有することだろうか。天満宮があるのはさして珍しいことではないように思えるが、実はこの恵美須神社境内の北西の隅には、北野天満宮を拝する遥拝所が設置されているのだ。天満宮を作って、更に遥拝所まで作るとは凄い念の入れようだ。恵美須神社にも関わらず、菅原道真の影響力の台頭に、えびす様のえびす顔にも冷や汗が光っているようで面白い。
 三つめは、境内にある岩本稲荷社だろうか。これも本殿の北側にあるとても小さな社で、そんな大したものには見えないのだが、実は平安の歌人である在原業平を祀っているという。その為だろうか、本殿の左右には額に入れられた三十六歌仙の肖像が掲げられており、これまたきっちりとえびす様を囲むように根を下ろしているようで面白い。

 そもそもこの恵美須神社のえびす様には、他とは違うちょっと変わった経歴を持っている。それは建仁寺の開祖である栄西禅師が宋からの帰国の際に嵐に見舞われるが、波間に現れたえびす神に一心に祈ったところ嵐が収まったという。これに感謝した栄西禅師が建仁二年(一二〇二)建仁寺建立にあたり、その鎮守社としたのに始まるのがこの恵美須神社なのだが、要するに一般にいわれている家運隆昌、商売繁盛のご利益の他にも、海上安全のご利益も備えている訳だ。だてに釣竿と鯛は持っちゃいない。笑顔で嵐も鎮めます。
 一心に祈れば、海上の嵐ばかりではなく、人生の嵐までも鎮めちゃってくれるかも?

 関連作品:京都にての物語「笑顔のご利益

 なお、参拝に際して知っておいた方がいいことがある。実はえびす様はとても耳が遠いというのだ。だから本殿前で鈴を鳴らしてお願いしても、えびす様にはそのお願いが届かないかもしれない。しか~し、ご安心。本殿の左手奥に進むと、本殿の側面に一枚の板が取り付けてあり「この板を叩いてお参りください」とある。要は耳の遠い老人の耳元に口を近付けて話しかけると同じことだろう。ちゃんとえびす様が理解してくれるよう、しっかり、ゆっくりとお祈りしましょう。
 また、この神社には参道に鳥居が2本立っていて、本殿に近い方の鳥居(写真の鳥居)の額束にはえびす様の顔が飾られているのだが、ここに賽銭を投げて上手く入れば願い事が叶うらしい。まぁ、モノへの感謝を前述したにも関わらず、小銭は投げていいのかって疑問はなきにしもあらずだが。もし訪れたならば、試してみるといいかもしれない。

(2009/02/26)

恵美須神社ホームページ⇒http://www.kyoto-ebisu.jp/

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