清水寺

「清水寺」

 

 清水寺。今更何を語ろうか――
 と、語る気が失せてしまうほどに余りにも有名な清水寺。京都を訪れたなら、その多くの人が清水寺を訪れていることだろう。
 最近では年末の『今年の漢字』発表の舞台としても有名だ。

 管理人が初めて清水寺を訪れたのは中学の修学旅行だったと思う。その時の思い出として今も記憶しているのは舞台からの景色というよりも、舞台に向かう手前に巨大な錫杖があり、その錫杖についてバスガイドさんから「これを持ち上げたら三国一の美女を嫁に貰える」といったような説明を受け、三国一の美女の意味もとりあえずに友人連中と必死に持ち上げようとしていた記憶がある。当然ながら持ち上がらなかった。おそらく今も持ち上がらないだろう。どうやら管理人は三国一の美女には縁がないようだ・・・
 と、それはさておき、その後も管理人は何度も清水寺を訪れている。一時期は管理人の偏屈思想により「商売上手な寺」というイメージから馴染めない時期もあったが、現在では人が集まるだけの魅力があるのだからしゃ~ないと、寛容というよりも批判心の放棄によってその姿を見ている。なぜなら、やはり京都観光に訪れたなら、周辺環境とも併せ清水寺に行っておけば間違いないし。案内するにしても清水周辺に連れていけば細かな説明抜きで楽しんでもらえるので、とりあえず楽。厳格という寺院の固定観念からではなく、観光という見地から清水寺を眺めたならその力はやはり偉大であり、管理人などが認める云々を振りかざすのもおこがましい話になる。もちろん寺院としても偉大なんだろうが。。。

 清水寺の創建は縁起に従えば宝亀9年(778)に延鎮上人が草庵を結んだの始まりとされ、後の宝亀11年(780) に坂上田村麻呂によって堂宇を整え十一面千手観世音菩薩を安置し創建されたという。その存在は当初から特別であったようで、平安遷都後当初は私寺の建立は禁止されていたが、清水寺は許されていたようだ。やはり創建人が桓武天皇の右腕でもある坂上田村麻呂であったことも関係しているのだろうか。
 創建後、清水寺は観音信仰の場として現在に繋がるような盛況振りを見せていたようで、その様子が多くの記録や物語に残っている。特に物語では、その盛況さ故に登場人物の出会いの場面として多く描かれたようだ(参考:梅原猛著「京都発見」より)。

 関連作品:京都にての物語「人と人

 その盛況振りを考えるに、清水寺の場所が重要だったのではないだろうか。かつては清水の舞台から遺体を放り投げたという話が伝わっているように、その周囲は鳥辺野と呼ばれ風葬地であった。一般人にまだ墓を作るという習慣がなかった頃、遺体は野に捨てられ自然の力によって野に帰すのが風葬だ。つまり当時の清水寺の周辺には亡骸がゴロゴロとしていた訳だ。そこには死の世界が広がっていた。清水寺を訪れた人々は強く死を意識する。意識すれば当然死後の世界を恐れる。己は極楽へ行けるだろうかと。そんな不安を解消するかのように千手観世音菩薩の存在がある。人々は、千手観世音菩薩に縋りたくてたまらなかっただろう。清水寺は生と死の最前基地であり、故に清水寺の千手観世音菩薩の存在は格別だったのではないだろうか。
 ちなみに中世から近世にかけて、そんな観音信仰がどういう経緯を辿ったのか、崖にせり出した舞台という存在ともあいまって、菩薩に命を預けるという意味で舞台から飛び降りて生きていれば願いが叶うという風習が信じられていたという。例え死んでも極楽へ行けると信じられていたようで、余りにもそれを実行に移す者が多かった為に明治5年(1872) には京都府が舞台からの飛びおり禁止令を出すに至った。強い決心を「清水の舞台から飛び降りるつもりで」とはいうが、本当に飛び降りてしまったら元も子もあるまい。今でも舞台の下には多くの地蔵尊が立っている。あれはそれらの人々を弔う為のものなのだろう。

 とにかくもどんな形であれ、清水寺は創建以来多くの人々を呼び込んだ。時には招かざる客に一山を焼かれる災難に見舞われたのは皮肉なことだが、それでも人々は清水寺に帰ってきた。そして現在――やはり清水寺の眺めはいい。舞台からの市街を見渡す景色。奥の院前からの舞台越しの景色。子安の塔から見る舞台の景色。春は桜に秋は紅葉。ライトアップもやっています。どうぞ、存分にお楽しみ下さいといったところだろうか。
 また境内にある随求堂では、その堂下に真っ暗な回廊を作って「胎内めぐり」と称した趣向が体験できる。一寸先も見えない闇を綱をたよりに辿っていく。この闇は後に来る光を見出す為の演出なのだが、その意図とは裏腹に、普段体験できない真っ暗闇を体験できることに管理人などは面白味を感じてしまう。別にアトラクションではないのだから騒ぐのはいかがと思うが、一度体験してみるのも良いかもしれない。

 これこそ今更な話だが――自ずから人を集めてしまう清水寺こそ、京都観光の王道ではないだろうか。

(2009/03/05)

清水寺ホームページ⇒http://www.kiyomizudera.or.jp/

京都にてのあれこれへ トップページへ