日向大神宮

「日向大神宮」

 

 当社の御由緒によれば、その創建は第23代顕宗天皇の頃に筑紫日向の高千穂の峯の神蹟を移したのに始まるとされる。顕宗天皇が在位していたのは西暦480年頃と伝わる為、この御由緒が正しければ京都の古社として有名な上賀茂神社も真っ青な京都最古の来歴を持つことになるが、もとより確証はなく、それからだいぶ時代を下った清和天皇(在位:858~876年)の頃に天照大御神を勧請したのが始まりともされる。しかし、中世の兵火により古記録共々焼失してしまったといい、詳細は明らかではない。その後、有志により再建され、後陽成天皇(在位:1586~ 1611年)より、内宮、外宮の御宸筆の額を賜るなど、江戸期には「京のお伊勢さん」と呼ばれ、伊勢神宮への代参、及び神社の一の鳥居が京の七口の一つ粟田口に面していることもあって道中の安全祈願をする旅人で賑わったという。
 境内には「京のお伊勢さん」と呼ばれるように、伊勢神宮を模して神明造の社殿、鳥居を潜って手前に外宮、階段を登った奥に内宮を有している。

 そんな、かつては賑わいを見せていた日向大神宮だが、現在は至って物寂しい。
 物寂しさの雰囲気は境内に至る前から漂いだす。上記したように、当社の一の鳥居はかつての粟田口、現在も山科へ抜ける三条通沿いに面しており、徒歩であればそこから参道を登るか、また南禅寺方面から二の鳥居辺りに出て参道を登っていくことになる。そして参道の左右には住居などの建物が立ち並んでいるのだが・・・人の気配が感じられない。それと見て空き家と分かる建物も多い。
 初めて管理人が当社を訪れた時、それは夕暮れ間近だったのだが、西日は建物と高い木々に遮られ辺りはすでに薄暗く、周囲に響くは風に靡く葉の音だけ。とにかく空気が・・・重い。まぁ、管理人には霊感なんてものが一切ないので、ただの雰囲気に呑まれた状態であっただけなのだが、先に進むのがためらわれてしまった。はい、ただのビビリです。が、ここまで引き返すのも勿体無いと勇気を奮い起こして長い坂道の参道を急ぎ足に登りきった。
 境内に入るとぽっかりと空が広がるので参道よりも陽射しは残りほっとするが、やっぱり物寂しい。鳥居を入ってすぐ右手に拝殿があり、左手に社務所がある。社務所の扉は閉まり、ここも人の気配がまったくない。辺りを見回しながら歩いていくと、前方の地面になにやら動くものが。見れば小さな蛇だった。う~ん、ナイス物寂しさを倍増させるような演出。
 少々の薄気味悪さを感じつつも、まずは天津彦火瓊々杵尊(アマツヒコホニニギノミコト)と天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ) を祀る外宮に2礼2拍手1礼。そして更に奥に進み、天照大御神を祀る内宮へ。ここでももちろん、2礼2拍手1礼。
 管理人は振り返り、改めて境内を眺めてみた。まぁ、本当に物寂しい。
 そんな物寂しさに包まれながら管理人は内宮から見て右手にある坂道を更に登っていく。実は当社には天の岩戸があるとの情報を得ていたので、案内板に従いその道を辿ったのだが、ほどなくして天の岩戸に辿り着いた。
 天の岩戸とは日本神話にて、天照大御神が弟の素盞嗚尊の乱行に怒り、その身を隠したという場所のことだ。もちろん当社の天の岩戸は、その神話を元に近年作られたものだが、岩壁の中に真っ暗闇の口を開いていた。表からではその闇は深く、先は見えなかった。
 散々繰り返してきたが、この日の日向大神宮の境内はとても物寂しかった。そしてその物寂しい境内には管理人一人。その管理人はときたら、ビビリである。闇はまさに、管理人を試すようであった。が、このまま躊躇していても時間が経つにつれ陽は更に傾き、更なる闇に包まれるのを恐れた管理人は、意を決して闇に向か・・・わずに、とりあえず岩壁を回りこんで出口を確認した。よし、出口は間違いなくある。それからもう一度入り口に戻って、いざ突入!と、どうだろう、入った途端に出口からの明かりが差し込み、数歩で出口に辿り着いてしまった。なんじゃこりゃ?ほっとしたような、肩透かしをくらったような。とりあえず岩戸内にあった戸隠神社に手を合わせてから出た。

 と、こんな感じの日向大神宮。
 余りにも「物寂しい」を連発し過ぎたような気もするが、実は当社は隠れた紅葉の名所であり、その時期には多くの観光客を呼ぶ。
 管理人としては、あれだけビビッていたくせになんだが、静寂こそ日向大神宮の良いところだという気もする。が、鮮やかに紅葉に染まった境内も、それはそれでまた良いのかもしれない。
 日向大神宮を訪れる際には、お好みによって時期を選ぶと抜群の雰囲気を味わえるかもしれない。
 もちろん、真摯な気持ちで訪れることが前提となるが。

 関連作品:京都にての物語「天の岩戸

(2009/09/19)

日向大神宮ホームページ⇒http://www12.plala.or.jp/himukai/

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