市比賣神社

「市比賣神社」

 

 平安遷都に伴い、東西の公設市場が設けられた。
 左京に設置されたのが東市。
 右京に設置されたのが西市。
 市場といっても、現代のような店舗ごとに自由な経営は認められず、厳しい統制監督下に置かれていて、販売品目、値段、営業時間等全て厳密に定められたルールに従わなければならなかった。
 都の人々の生活を支える為に設けられた東西の市だったが、やがて西市は右京の衰退と共に消滅し、東市も中世に入り商業の主導権が民間に移ると共に衰退した。

 市比賣神社は、その東西市の守護社として延暦14年(795)に宗像三神を勧請し創建されたという。
 宗像三神とは福岡県の宗像大社に祀られている三柱の女神、多紀理比賣命(たぎりひめのみこと)、市寸嶋比賣命(いちきしまひめのみこと)、多岐都比賣命(たぎつひめのみこと)の総称で、朝鮮半島への海上交通を守護する神として信仰されていた。
 そして現在では宗像三神に加え、神大市比賣命(かみおおいちひめのみこと)、下光比賣命(したてるひめのみこと)が合祀されている。
 元々の創建地は現在の西本願寺東南部であったそうだが、豊臣秀吉による都市計画の一環として現在の場所に遷座してきた。
 以上の経歴から、現在は市場守護、また祀られている5柱が全て女神であることから、女人厄除・女人守護の御利益があるとして信仰を集めている。

 市比賣神社の見所。
 まずは、その外観。門の上にマンションが建っているのか、マンションの下に門が穿たれているのか・・・
 土地活用を考慮した結果であろう、とりあえずマンションの下に参道は通じている。社務所はマンションの一階部分で、完全にマンションとの一体経営だ。とても現代的な造り、といえば良いだろうか。
 境内はとても狭い。門を潜ってすぐに鳥居があり、右手に行くと本殿がある。上記したように女神ばかりが祀られている為、女人厄除・女人守護を称している訳だが、祀られている女神の一柱である市寸嶋比賣命は、本地垂迹では弁財天と同一視されており、弁財天といえば嫉妬深いとする説もあり・・・参拝者に嫉妬したりしないのかな?などと邪推してみたり。いや、女性同士ってのも、なかなか難しいようなので・・・。でも、市比賣神社に祀られている女神達は寛大なのだろう。。。
 鳥居を左手にいくと、すぐの所に『カード塚』なるものがある。東西市の頃に商いの御免状『鑑札(かんさつ)』を発行していた由来から、使用済カードの清めを行い、9月には『カード感謝祭』なるものまで行っているそうだ。カード塚の形状は・・・凡人には分かるようで、分からない。。。
 境内の一番奥に『天之真名井(あめのまない)』と呼ばれる井戸があり、洛陽七名水にも数えられ、今もこんこんと水が湧き出ている。かつては皇子誕生の際、産湯に使われていたというが・・・いつの頃の話であろうか。旧地での伝承であれば、水脈は変わっているような、などと思ってしまったり。大事なのは水脈よりも『存在』としての井戸か。なお、井戸の奥には小振りの社殿が設けられ、湧き出る水を飲み手を合わせ祈ると、一つの願いが叶うと伝わる『一願成就まいり』の信仰があるそうだ。

 なんだろう。ここまで書いてみて、一々いちゃもんをつけている自分がいる。いや、別に市比賣神社を嫌っている訳ではない。こう書くと却って失礼かもしれないが、嫌う程の思い入れもない。
 では、なぜか?と考えてみた。
 そうか、市比賣神社が『女人厄除・女人守護』と女性に対しての御利益を全面に押し出しているからか。だから醒めた目でしか眺めることができないのか。だって俺、野郎だし。野郎の俺は厄除してくれないんでしょ?守護してくれないんでしょ?だから、関係ないし。。。
 女神だからこその女人厄除・女人守護という理屈でいうと、同類相憐れむの理屈ということか。共感こそが、市比賣神社の御利益の根拠となるか。
 女性が女性に共感するっていうのは、どういう時か。まぁ、色々とありましょうが、往々に性別の対極に位置する男性への共同戦線ではあるまいか、と考える。内を固める為には、外に敵を想定すればいい。まるで使い古された政治手法のように。
「神様、同じ女性として、我々女性の為に野郎共に裁きの鉄槌を!」
 つまり、市比賣神社は男性にとって完全アウェーなのだ。どうして、いちゃもんを付けずにいられようか。。。
 逆に女性にとっては、完全なるホームであろう。

 女性諸君!市比賣神社に集いて団結したまえ!
 (男性諸君!敵襲に備えて身構えたまえ!)

 とまぁ、被害妄想に取り付かれた僻み野郎の与太話はさておき。
 なんといっても『女性の為のお社』という性質が強く押し出されている市比賣神社は、日本全国の女性の厚い信仰を集めているようだ。
 (もちろん、市場関係者からの信仰も厚い!そもそも、こっちが本領だし。。。)

 関連作品:京都にての物語「キラキラ

(2015/06/28)

市比賣神社ホームページ⇒http://ichihime.net/

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