よもぎロール

<よもぎロール>

<店舗名:OKU>
<価格(税込):1890円>

 

 ずっと前から店舗の前を通ってきた。
 ずっと前から気になっていた。
 祇園にある和バルことOKU。
 左京区花脊にある料理宿として有名な美山荘のご主人である中東久人さんがプロデュースするお店。
 当然料理が気になって・・・うん、気になると言えば気になるが・・・気になっていたのは、店頭にディスプレイされていた「よもぎロール」。
 よもぎのロールケーキだって!その組み合わせだけでインパクト充分。うーん、どんなロールケーキに仕上がっているんだろう?と想像力を駆り立てる。
 その出会いを、どんな理由で逃したかはすでに記憶にないが、以後、気になりつつも踏み込めないでいた。それは勝手に創り出した「美山荘」という敷居の高さか、はたまた、単純にお値段に二の足を踏んだか。。。
 はや、幾年。
 ようやく、購入してみた。長かった。。。

 よもぎは香りの強い国産のものを使用し、細かく砕き純度100%のピュレにしたものを生地やクリームに練り込んでいるそうで。
 まず、見た目にその緑が美しい。翡翠の透明度を思わせる。軽い焼き色は野趣の表現か。
 封を開け、香りを嗅いでみる。さぞやよもぎの香りを豊かに楽しむことができるのだろう・・・と思いきや、卵や小麦の香りの方が強い。あれ、よもぎは?と探すように辿ってようやく、仄かによもぎを感じた。ん?これは馬鹿っ鼻ゆえか?それとも期待し過ぎたせいか?それとも、このぐらいの芳香がよもぎ商品としては一般的なのか?まぁ、確かに、よもぎ餅でも、よもぎ臭いというのはないか。こんなものかな・・・と、自分を納得させる。
 大きく一口。おっ、特筆すべき生地のもっちり感。今までロールケーキの生地といえば水分の少ない軽いものか、反対に水分の多いしっとりしたものを食したことはあったが、歯触り、舌触りに弾力を感じるようなこのもっちり感は初めてだった。いっそ、よもぎ餅をイメージしてのことか?と想像を飛躍させてしまいたくなるぐらいの、ケーキ生地にしては強い弾力。反面、クリームは滑らかに。
 とても好ましい食感。・・・食感?喜んで咀嚼を繰り返していると、何やら時に異質な食感が。シャリ、っていう。なんぞや?と思いその正体を探してみたら、白い筋状の物が。まさかのよもぎの繊維か?噛み切れないものではない。気にしなければ口の中に残ることもない。ただ、食感に変化をもたらすものであり、なるほど、よもぎのロールケーキなんだね、と妙な納得まで引き出してくれる。ピュレを作る際に細かくくだいているというが、こうして残った繊維は自然を表現するアクセントとして、かえって面白い。
 さて、重要なよもぎの風味はというと、相対的に生地の方が強くよもぎの風味を感じる。クリームはどちらかというと乳性の風味が強い。ただ、ハードルを上げ過ぎてしまっていたようで、よもぎの風味が若干物足りなく感じた。では、どのぐらい期待していたんだというと「うわっ、よもぎだ」と笑みを浮かべてしまうような「癖がある」と言われてもいいような程度のものを期待してしまっていた。完全に個人的な嗜好で。。。
 それでも、よもぎを使ったロールケーキという珍しさだけに終わらない、よもぎ独特の風香、風味をバランスよく活かしたものとなっていて、とても美味しく頂いた。

 長年の想いは達せられた。
 しかしなぜ、こうまでよもぎロールが気になり続けたのか。
 思うに、京都で「緑」のお菓子とイメージすると、どうしても抹茶を使用した商品というイメージに落ち着いてしまいがちだが、ここに一点「抹茶ではない緑のお菓子」という、イメージを裏切る珍しさと、和のイメージが強いよもぎをロールケーキという洋菓子に仕立てた奇抜さとが興味を惹く面白味となり、かつ「美山荘」という看板も加味した総合的な魅力が、怠慢に過ぎた日々を乗り超えての購入という行動に到らせたのだろう。
 京都にて、多数を占める抹茶という濃緑の輝きの中、独自の翡翠の如き緑光を放つ「よもぎロール」。
 その輝きは、希少の魅力と美味に満ちている。

(2016/10/12)

OKUホームページ⇒http://www.oku-style.com/

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