紅葉よそおい

<紅葉よそほい>

<店舗名:清閑院>
<価格(税込み)189円>

 

 秋といえば紅葉の季節。読書の季節。運動の季節。そして、食欲の季節。
 食欲の季節を楽しみたいあの人への贈り物。なにか秋を感じさせるお菓子はないものかと探し求めた結果、辿り着いたのは清閑院の「深山の錦繍」というお菓子。これは、きんとんを見事な色使いで、紅葉の時期の深山の眺望の光景を表現している。贈り物としては最適と思い、これを採用。幸いに好評を得た。
 しかしだ、自分用には購入しなかった。それはなぜかといえば、見た目には美しいが、その美しさが食べてみたいという食欲へと直結しなかったからだ。あくまでも贈り物として喜ばれるだろう一品。管理人が選んだのは、食べてみたいと食欲をそそった一品。それが今回紹介する「紅葉のよそほい」。
 見た目の鮮やかさでは「深山の錦繍」に劣る。けれど、このゴツゴツとした岩山に残った一片の紅葉、といった野趣味溢れる風情はどうだろう。そこが個人的には面白い。そして何よりも、そのゴツゴツとした岩山を表現するのは、ありのままに詰め込まれた白小豆と大納言。単純な豆好きには、これが食欲をそそらずにいられるだろうか。

 では、いただく。
 封を開けると羊羹の甘い香りが漂う。見た目は期待通りにいい。残念なのは羊羹の固まり具合によるのだろうが、ダイヤモンドのカットが一番石を輝かせる為に綿密に計算されているように、透明な羊羹の固まり具合を光を取り込むように計算したのならば、もっと印象深い一品になるような気がした。
 一口で食べるのは勿体無いので、半分に切って頂いた。うん、羊羹だね。普段余り羊羹を口にしない人間にしてみると、この甘さは羊羹を実感させる。けれど、豆。やはり豆がいい。まず食感がいい。餡は粒餡が好ましいが、この豆は更にあからさまで食感がとても楽しい。じゃあ、豆だけ食ってろという感じだろうが、豆だけ食べるのも充分好きだが、ここはあくまでも和菓子。羊羹との食感のバランス、羊羹の甘味を緩和させる役割としてもいい存在感を示していた。期待通りの美味しさだった。
 残りの半分も頂き、ご馳走様でした。

 ある時、千利休の屋敷の庭に多くの朝顔が咲いた。この噂を聞き付けた太閤秀吉が利休の屋敷を訪れてみると、朝顔の花はなかった。秀吉はいぶかしむが、茶室に通されるとそこに一輪の朝顔が花入れに活けられていた。実は利休は全ての朝顔を切らせ、一輪の朝顔だけを茶室に飾ったのだ。これは利休の美意識を物語る有名な逸話であるが「紅葉のよそほい」の姿にふと思い出してしまった。
 侘びなる姿。
 見た目に鮮やかなのも美しいが、心に染み入る美もまたよいもので。

 同店別商品:朝摘みトマト

(2010/11/25)

清閑院ホームページ⇒http://www.seikanin.co.jp/

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