京おはぎ

<京おはぎ>

<店舗名:松楽>
<価格(一個)230円>

 

 店を訪れたのは正午を過ぎた頃だったか。
「おはぎ、まだありますか?」
 と訊ねれば、
「ありますよ」
 とお店の女性が箱に入った色とりどりのおはぎを出してくれた。おお、売れ切れずに残っていたかと喜んで覗き込み、前もって購入しようとしていた決めていたものを探すが・・・
 『黒胡麻』『紫蘇』『南瓜餡』と、ことごとく売れ切れていた。
「沢山つくったんですけどねぇ」
 とお店の女性。まぁ、仕方がないので残っている中から、写真右上から『紫芋餡』、右下『きな粉』、左上『さくら』、左下『つくね芋餡』の四つを購入した。
 <京おはぎ>と名付けられた松楽のおはぎは、上に挙げた七種類の他に『薩摩芋餡』『抹茶餡』『えんどう豆』『大納言餡』『黒こし』を含む十二種類のおはぎの総称。おはぎといえばお彼岸を思い出すぐらいで、日頃から好んで購入することはないが、種類の豊富さが好奇心を呼んだ。

 <京おはぎ>の基本構成は、餡もので外側をくるんでいる場合は、その中によもぎを混ぜ込んだもち米が、逆に外側が餡もので無い場合は、二層目をもち米で包み、その中に餡を入れて、そして全ての種類の中心には栗が一個丸ごと入っている。
ではまず『紫芋餡』から。
 紫の外見は単純に余り食欲をそそらないのだが、ともあれ一口。しっとりとした餡は甘味も程よく紫芋の風味を良く残している。おお、芋だ。それに餡に包まれているよもぎを混ぜたもち米、このもち米がまた美味しい。一粒一粒の食感がしっかりしていて、もっちり感を存分に発揮していた。丸ごと入った栗も、食感、風味共に楽しめて嬉しい存在だ。ああ美味しい、と素直すぎて面白くない一言。
 『きな粉』
 姿は一般的なきな粉餅。きな粉の香りがいい。きな粉の風味がその外のよもぎ入りもち米、漉し餡と合っていて間違いない一品。それにしても、もち米が美味い。
 『さくら』
 桜の葉で巻いたとなれば、桜餅。その連想だけで食欲をそそる。桜の葉のしょっぱ加減がたまらない。このしょっぱさが包んでいる餡子の甘味と交わると、これまたたまらない。どうしてこうも、唾液までをも美味くしてしまうのだろうか。これもまた間違いない。ほんと、もち米が美味しい。
 『つくね芋』
 甘いつくね芋?というイメージは浮かび辛いが、なるほどのつくね餡。まったりとした舌触りに、つくね芋の風味がしっかりと残っている。見た目にも雪餅とでも呼べそうな白の美しさがあった。最後に――もち米が美味い!

 バラエティーにとんだおはぎの数々。無謀な冒険心、というよりも職人さんによる計算された試みを感じられる品々。故に、爆発的な奇抜さは備えてはいないが、それでもそれぞれに素材の個性が活かされていた。
 そしてなによりも、個性を活かす為のベースがしっかりとした旨味を持っていた。<京おはぎ>でいうなら、よもぎ入りもち米と栗。特にもち米の美味しさが個人的には際立っていた。元々もち米は好きなのだが、妙に感心してしまった。よもぎがそう感じさせるのか、はたまた製造に妙技を隠しているのか、その判断ができるほど達者な舌は持っていないが、とても満足をさせてくれた。
「個性を活かす基礎の大切さ」
 お菓子ばかりではない、人としての生き方にも相通じるような、そんな哲学を内包した一品こそ<京おはぎ>の魅力の一面だろう。

(2011/05/12)

松楽ホームページ⇒http://www.kyoto-shoraku.com/

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