京くみひも体験

「京くみひも体験」

 

 『くみひも』とは、糸を組み上げて一本の紐に仕立てる工芸で、その技術は奈良時代に唐から伝わり、その遺物は正倉院御物にも含まれる長い伝統を持つ。
 平安時代より京では神具、仏具、武士の鎧兜や刀の下げ緒などのニーズに応える形でくみひも制作が盛んになり、室町時代には茶道の興隆により仕覆の緒や掛軸の啄木、江戸期に入ると羽織紐や髪飾りの紐、江戸末期からは帯じめなど、途絶えることなく今に伝わり、現在では『京くみひも』と呼ばれ、経済産業大臣指定の伝統的工芸品に指定されている。

 ただ、今の時代、くみひもというものを意識することは余りない。きっと原理は同じなのだろうが、今や機械による大量生産となってしまって、糸を組み上げて一本の紐に仕立てたものを『くみひも』と呼ぶことはないのではないだろうか。それはただ漠然とした『紐』でしかない。

 なので、いまいち、くみひもに対する興味はなかった。その為、くみひも体験といっても「絶対体験してみたい!」という程のものではなかった。正直いえば、何かを体験できる場を探していた結果として、都合に時間と場所が一致しただけだった。なにか都合に変更があれば、キャンセルしても構わないと思っていた。
 そう、実際に体験してみるまでは――

 訪れた体験場所は『安達くみひも館』。
 なお、体験には事前の予約が必要なのでご注意を。
 訪れると、早速2階の作業場へと案内される。作業場にはすでに写真上部のような丸台が座布団の前に置かれていた。
 次に組み上げる紐選び。体験では4色の糸を組み上げていくのだが、一本一本の糸の色を選ぶのではなく、すでに4色を組み合わせた十数種類のセットから好きな色の組み合わせを選ぶことになる。
 近年は暖色を好んでいたのだが、直近はなぜか緑を求めているような今日この頃。癒しを求めているのだろうか・・・。なのに紫が含まれているのを選んでしまうところ・・・病んでるのか?などと、自己分析をしつつ、丸台にセッティング完了。
 作業の手順の説明を聞く。
 手順は以下の通り(写真上部参照)。
 ①右手で左上の青の糸を持ち、左手で右下の白を持つ。そしたら時計回りに右手に持った青の糸を、白の糸があった右下へ。左手に持った白い糸を、青い糸のあった左上に移動させる。

 なお、この時、余り上に持ち上げ過ぎると糸の組具合が甘くなるので、糸の先、丸台の外側に垂らした『玉』と呼ばれる錘の重さを活かしながら、指に引っ掛けるようにして糸を持ち上げると良いらしい。

 ②今度は左手で右上にある紫の糸を持ち、右手で左下にある緑の糸を持つ。そしたら今度は反時計回りに左手に持った紫の糸を、緑の糸があった左下へ。右手に持った緑の糸を、紫のあった右上へ移動させる。

 以上、後は①②をひたすら繰り返す。
 実に単純な作業だが、最初は若干の戸惑いを覚える。①から②、②から①への作業に移るには決められた手の動きがあるのだが、えーと・・・となる。
 慣れたら慣れたで、今度は調子になってスピードを上げていくと、途中で手がこんがらがってくる。あれ、どうだったっけ?となる。
 単純だが、集中力がいる。無言になる。カタッ、カタッ、と紐にぶら下がった玉と丸台の柱がぶつかる音だけが一定のテンポで作業場に響く。
 ――なんか、面白いじゃいないか!
 例えばこれが職業として、一日中黙々と作業しなければならないというなら、そう単純ではないかもしれないが『体験』という限定された時間内において行われる作業としては、初めての作業という好奇心と、久し振りに行う『物を作る』という行為の懐かしさがあいまって、紐を組む(普段離れした体の動きを伴う)作業がとても楽しいものに感じられた。

 やがて用意された紐を端まで組み上げると、写真下部のように見事?くみひものできあがり。
 時間としては10数分ぐらいだったと思われる。
 安達くみひも館の体験では、完成したくみひもを決められたコース内で様々に加工してくれる(選択するコースによっては、工程が異なる可能性あり)
 今回は、とりあえず無難なところでストラップコースを選択。
 数種類のタイプから、加工して貰いたいストラップのタイプを選択。
 ここで加工に若干の時間がかかる。
 その間、作業場に隣接するくみひも資料館を拝見。そこには、いかに体験したばかりの作業が、甘っちょろいものかを痛感させられる、数々の工芸品と呼べるくみひも作品が展示されていた。また非常に複雑な作業を行う作業台もあり、一体何本の糸を組み合わせるんだ!と驚嘆してしまった。
 なるほど、さすが『経済産業大臣指定の伝統的工芸品』ですな。無知でした。

ストラップ

 やがて加工が終了し、完成品を受け取る。
 うーん、なんだろう。完成度は体験レベルだから仕方ないとしても・・・なんでこの色の組み合わせを選択した?と、その疑問ばかりが脳裏を巡る。
 まぁ、せっかく作ったので、早速使用中。自分で作ったからこそ感じられる味わいは、既製品にはないもので。

 最初は甘く見ていた『くみひも体験』。
 ところが、その世界は奥が深く、体験してみれば僅かな時間ではあったが夢中になってしまった。
 玉が丸台の柱を打つ、カタッ、カタッという音が、心地良く耳に残っている。

(2016/04/28)

安達くみひも館ホームページ⇒http://www.adachikumihimokan.com

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