常寂光寺

「2008紅葉見物(1)」

 

 紅葉見物予定日の数日前から嫌な予感はしていたんだ。天気予報の週間予報。そして日にちが近付くにつれて……ど~して予定日だけピンポイントで雨なんかなぁ~。そんでもって、ど~してこんな時だけ天気予報が当たるかな~。

 その日は雨だった。

 阪急電車で降り立ったのは嵐山駅。 雨が幸いしてか、休日にも関わらず人出は予想よりも少なかった。けれども少し歩いて渡月橋を望めるところまでくると、渡月橋はびっしりと人で埋まっていた。これで雨が降ってなかったらと思うと空恐ろしくなる。さすがに名所といわれるだけの観光スポットだ。
 渡月橋を渡りながら山に目を点じれば、緑と黄色と緋色と赤に染まった姿を雨の靄の先に見せていた。一山燃え立つような、というような鮮やかさはないが、却って色彩の多さが味わい深い風景となっていた。

 渡月橋の北側の道路は土産物屋など多くの店舗が軒を連ねているので人が溢れ、その人ごみをやり過ごすのにも一苦労だったが、天龍寺の門前を通り過ぎ、途中で左折し竹林の道へ。竹林の道を進むと野宮神社があり、境内の色付いた紅葉が鮮やかで、この先の更なる鮮やかな情景を予感させてくれた。
 トロッコ電車の線路を越えて更に北へ。目的地の常寂光寺には程なく着いた。

 着いた管理人を待ち受けたのは、門外にまで溢れる受付待ちの行列。紅葉の有名観光スポットの早速の先制攻撃に踵を返したい気持ちに捉われたが、ここで戻ってはやってきた意味がなくなるので、はやる気持ちを抑えて列の最後尾についた。幸い行列は比較的早く流れてくれて、ストレスを感じる間もなく拝観料を支払い入山することができた。
 入ると正面に仁王門がそびえている。その参道の左右に色付いた紅葉が鮮やかだった。ただ残念なのは、少々盛りの時期を逃したようで、散った紅葉が朱の絨毯を敷いていた。もしこの散った紅葉が未だ散らずにいた頃は、どれだけ奥行きのある火炎をたぎらせていたことだろう。
 しかし仁王門を潜ったところで、紅葉の時期にはもう一つの盛りがあることを知る。それは本堂に至る斜面一面を散った紅葉が埋め尽くした光景だった。普通紅葉は上を見て楽しむ。けれど、下にある紅葉も美しく目に楽しい。これで更に時間が過ぎてしまえば、鮮やかな朱は色を失せ、ただ土へと返るばかりになってしまい、まさにこの光景を見ることができるのはこの時を置いて他にない。
 本堂への階段を登りきり、そこから振り向いて眺める景色もまた素晴らしかった。さすがに紅葉の名所といわれるだけのことはあるなと頷いてしまう。だいぶ紅葉が落ちてしまっているとはいえ、それでも目の前には色付いた世界が広がっていた。
 これなら人の多さも諦めがつく、と思った矢先、人力車の車夫の男性が自分の客に対して「昨日はこの倍以上の人出でしたからね、お客さんと離れないようにするのが大変で目印にずっと手を挙げてましたよ」という会話が耳に入った。この倍以上?今日も大概じゃないっすか?雨で不幸中の幸いとかという言葉が脳裏を過ぎった。

 その後は雨で足場が悪かったこともあり、本堂から上には登らず、鐘楼を回り込んで下山した。

 常寂光寺は紅葉の有名スポットといわれるだけあって素晴らしい景観だった。その代り、紅葉以上に人を見る破目になろうことは重々覚悟しておいた方がいいだろう。
 美しいものには価値がある。その代償が、ここでは我慢ということになるだろうか。
 だぁ!みんなどこかに行ってしまえ!(管理人心の叫び)
 そして管理人も、後ろの人からそう思われているのだろう・・・

(2008/12/26)

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