「藤原成道」

 

 さぁ、今年はいよいよサッカーの2010年W杯アジア3次予選が始まります。今や3大会連続出場中の日本としては、ぜひとも突破し、ドイツの無念を晴らしたいところ。
 ところが、この大事な時にオシム監督が倒れてしまった。人とボールが連動して動くサッカーという、管理人のような素人にもわかりやすいサッカーをし、なおかつある程度順調に成果を出していただけに、とても残念で仕方がない。その後、フランスW杯でも指揮をとった岡田監督が就任したが……なんとなく物足りないと思うのは素人目なのでしょうが、大丈夫かなとやきもき。そんな時こそ、頼りになる選手がいてくれたならばと思うが。高原選手、中村俊介選手、個人的にはルマンの松井選手(元京都サンガ)にも頑張ってもらいたが・・・。
 こんな時に、ふと思ってしまうことがある。ああ、大空翼君がいてくれればなぁ~と。

 そんな大空翼が平安時代の京都にいた!それが今回の主人公「藤原成道/フジワラナリミチ」だ。

 大空翼といえば高橋陽一さん原作のサッカー漫画「キャプテン翼」の主人公で、今や世界的にサッカー小僧の憧れの的だ。
 一方、藤原成道(1097~1159?)は白河法皇や鳥羽法皇の時代にかけての人物で、大納言にまで昇進した藤原一門の貴族だ。そして成道は、蹴鞠の名手だった。

 明確にいえば、サッカーと蹴鞠は同じ競技ではない。あくまでもボール=鞠を足で扱うという唯一の共通点があるだけだ。どちらかといえば蹴鞠に近いスポーツはセパタクローではないかと思うのだが、それはさておき。
 その共通点故に、現在では蹴鞠の神「精大明神」を境内摂社として祭っている白峰神宮は、サッカー(球技スポーツ全般)守護の神社として有名になっている。なので、ここでは細かい事を抜きに、サッカー=蹴鞠とする。

 大空翼の台詞の中に「ボールは友達怖くない」というのがあった。彼は幼少の頃から日々ボールを手放さず、まさにボールを【友達】として接してきた。
 一方の成道も、蹴鞠の技術を上げる為に日々足元から鞠を離さず、病気になって寝ている時にも、布団の中で鞠を足に当てていた。また大雨の季節には大極殿に赴き、一人で鞠を蹴っていたという。その蹴鞠に対する想いが鞠に通じたのか、ついには鞠から顔は人間、手足は猿のような【鞠の精】が現われ、成道の指示に従うと誓うのだ。まさに「鞠は友達怖くない!」
 成道の超人技として有名な逸話に、清水寺舞台の欄干を鞠を蹴り上げながら何往復もしたというものがある。当然のことながら、舞台は断崖にせり出すようにして建てられており、見ている方が肝を冷やしそうだ。まぁ、話半分、仮に欄干には登っていなかったとしても、鞠を落とさずに舞台を何往復もしたと考えれば、その技術の高さが知れるだろう。更に、蹴鞠の鞠はサッカーボールのように球体ではない。極端に言えば瓢箪のように中ほどをくくってくびれたような形になっている。当然、蹴りどころが重要になる。サッカーのリフティングよりも難易度は高い。成道、恐るべし。
 なお、成道は清水寺の逸話でもそうだが、どうも身体的にも超人だったようで、台盤の上で沓の音をさせず鞠を蹴ったかと思うと、築地や檜垣の腹を走ったといった逸話も残っている。故に、澁澤龍彦さんはその著書『唐草物語』の中で「空飛ぶ大納言」と題し、成道は鞠を蹴り上げるばかりではなく、ついには自分も鞠と共に飛翔しようとしていたと記す。
 まさに、あの大空翼の異常に長い滞空時間のオーバーヘッドキックに通じるではないか!

 リアルな現代の日本には、残念ながら藤原成道も大空翼もいない。
 けれど、二人の超人的身体能力は置いておくとしても、上達したいという一心に願う気持ちこそが、上達する要であるという事を二人は教えてくれているように思える。
 サッカー日本代表の選手達よ、ぜひとも寝る時にも足元にはサッカーボールを。
 そして、ボールは友達怖くない!

 頑張れ、日本!

(2008/01/25)

<藤原成道縁の地>

 ・蹴鞠の神「精大明神」を境内摂社として祭る。
   白峰神宮ホームページ⇒http://www10.ocn.ne.jp/~siramine/

 ・藤原成道が舞台の欄干で見事な技を見せたと伝わる。
   清水寺ホームページ⇒http://www.kiyomizudera.or.jp/

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