鶏卵素麺

<鶏卵素麺>

<店舗名:京都鶴屋 鶴寿庵>
<価格(税込み)525円>

 

 今年放送中の大河「龍馬伝」は大層な人気だそうで。
 その中でもちらりと出てきたのが新撰組。新撰組初期の屯所といえば壬生で、主に八木邸と前川邸が使用されていたことはよく知られており、現在見学が可能な八木邸を訪れたファンも多いだろう。そんな八木邸の門前に和菓子屋がある。完全に新撰組目的で訪れると素通りしてしまいがちだが、その和菓子屋こそ今回紹介する「鶏卵素麺」を製造販売する京都鶴屋 鶴寿庵。よく「屯所餅」と書かれた旗がはためいているので覚えている方もいるのではないだろうか。

 鶏卵素麺は16世紀頃、南蛮人によってカステラや金平糖、ボーロと同時期に日本に伝わったという。別名を「エンゼル・ヘアー(天使の髪)」とも呼ばれたそうだ。原材料はなんやかんやと混ぜ込んで複雑怪奇な味わいを競い合うこのご時世にあって驚きの卵黄と糖蜜だけというシンプルさ。さて、どんなお味だろうか。
 箱を開けて見たその姿は・・・黄色い糸こんにゃく?しらたき?素麺というだけあって麺状のものを纏めたような姿となっている。
 開封し香りをかいでみると、発散されこれと解るような香りはほぼないのだが、なんとなく卵の雰囲気が漂う。
 それでは早速と手にとってみると、表面は糖蜜の影響で少々べとつきがあった。前歯で半分噛み切る。表面に糖蜜が結晶しサクサク、カリカリとした歯応えを少しだけ期待していたのだが、糖蜜はあくまでもしっとりとしみこんでいるだけで結晶しているような部分はなく柔らかな食感だった。口の中で咀嚼するのではなく、舌と上顎を使ってコロコロと転がしてみる。すると纏められていた麺の一本一本がほぐれてきてホロホロと口の中に散らばっていった。ああ、こういう感触って個人的に好み。とても面白いと思ってしまう。
 で、問題の味はというと、まさに卵!御菓子というよりも卵!金糸卵というものがあるが、あの一本一本をもっと繊細にし、もっと甘くしたのがこの鶏卵素麺といったら乱暴過ぎるだろうか。しかし、程よい甘味の卵黄の濃厚さに支えられた押しの強い風味は美味しいというよりも、なかなかに面白味があり、その素朴さが癖になるといえば癖になりそうな味わいだった。

 卵は栄養価の高い食材である。今でこそ技術は進歩し、お菓子にも様々な栄養価を含ませることができるようになったが、16世紀頃当時の人々にとって鶏卵素麺はただのお菓子に留まらない栄養食の一つであっただろう。
 その恩恵は、まさに天使の贈り物であったのかもしれない。

(2010/07/07)

京都鶴屋 鶴寿庵ホームページ⇒http://www.kyototsuruya.co.jp/

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